有価物と廃棄物の違いは「物」ではなく「取引の形」で決まる
有価物と廃棄物の違いは、物の種類で決まるのではない。同じ金属くずでも、引き取りの際に処理料金を受け取れば廃棄物、相場で買い取れば有価物になりうる——決めるのは「取引の形」であり、その判断を下すのは占有者でも買主でもなく行政だ。
環境省の「行政処分の指針」は、廃棄物を「占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったもの」と定義し、該当するかどうかは物の性状・排出の状況・通常の取扱い形態・取引価値の有無・占有者の意思を総合して判断するとしている[2]。そして、有価物と認められない限りは廃棄物として扱う、と念を押している[2]。立証の負担は、事実上、有価物だと主張する側にある。
この線引きを誤ると、両方向に損失が出る。廃棄物を有価物と称して扱えば無許可営業(廃棄物処理法第25条第1号・5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、併科あり)[1]に直結し、罰金刑でも処理業の欠格要件に触れて許可の取消しにつながる[2]。逆に、売れる物まで一律に廃棄物として受ければ、許可品目・委託契約・マニフェスト・処分費の全部が乗り、採算が成り立たない。処理業者が知りたいのは「どの証拠がそろえば行政に有価物と説明できるか、そろわないならどこで線を引いて廃棄物として受けるか」であり、この記事はその順で整理する。
法律に線引きは書いてない——第2条の「不要物」
廃棄物処理法の条文に、有価物と廃棄物を分ける基準は書かれていない。定義は第2条第1項の一か所だけで、品目を並べたあとに「その他の汚物又は不要物」とある。
この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
つまり、列挙された品目に当たらなくても「不要物」なら廃棄物であり、何が不要物かは条文の外で決まる。
「不要物」の一語に判断の全部がかかっているが、その中身は条文にない。どの品目が廃棄物か、という読み方は最初から成り立たない。一般廃棄物と産業廃棄物の区分(一廃と産廃の違い、産業廃棄物の20種類)は「廃棄物であること」が決まった後の話であり、その手前の「そもそも廃棄物か」が本記事の論点になる。
線引きを決めたのは最高裁——おから事件で何が×だったか
「不要物」の読み方を確定させたのは、平成11年3月10日の最高裁第二小法廷決定、いわゆる「おから事件」だ[3]。豆腐製造業者から処理料金を受け取っておからを収集・運搬・処分していた被告人が、おからは有用な資源で不要物ではないと争い、最高裁は職権で判断を示した。
決定は、不要物とは「自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物」をいい、該当するかどうかは「その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である」とした[3]。現在の行政処分の指針の5要素は、この決定の文言をそのまま行政の運用に引き直したものだ。
おから事件で何が×だったかを見ると、「取引の形で決まる」の意味がはっきりする。決定が認定した事実は、おからが豆腐製造業者によって大量に排出されていること、非常に腐敗しやすいこと、当時は食用などで有償取引される量はわずかで大部分が無償で牧畜業者に引き渡されるか有料で処理委託されていたこと、そして被告人が処理料金を徴していたことだ[3]。排出は計画的で、被告人には原料に使う意思もあった。それでも、性状・通常の取扱い形態・取引価値の3点が揃って×になれば不要物になる。意思と排出状況が○でも足りない——これが総合判断の意味だ。
なお、決定が解釈したのは改正前の施行令第2条第4号の「不要物」で、現在は法第2条第1項の「不要物」として同じ語が置かれている。条文の位置は変わったが、読み方は変わっていない。
行政が見る5つの証拠
結論からいえば、5要素は「判断基準」というより「行政が確認する証拠の一覧」として読むのが実務では正しい。行政処分の指針は、要素ごとに何を確認するかまで書いている[2]。
要素 | 指針が示す基準 | 現場でそろえる証拠 |
|---|---|---|
物の性状 | 利用用途に要求される品質を満たし、飛散・流出・悪臭など生活環境保全上の支障のおそれがないこと | JIS等の客観的な規格への適合、土壌汚染などの環境基準の充足、品質管理の記録 |
排出の状況 | 排出が需要に沿った計画的なもので、排出前・排出時に適切な保管と品質管理がされていること | 搬出計画、受入側の需要との対応、場内保管の状態 |
通常の取扱い形態 | 製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと | 同種の物の取引実態、相場の存在 |
取引価値の有無 | 有償譲渡がされており、客観的に見て取引に経済的合理性があること | 名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、運送費等を勘案しても双方に合理的な価格であること、その相手以外への有償譲渡実績 |
占有者の意思 | 客観的要素から社会通念上合理的に認定できる意思として、適切に利用または有償譲渡する意思があること | 上の4点から裏づけられる意思。認識の主張だけでは足りない |
5つ目の「占有者の意思」には注意が要る。指針は、占有者が自ら利用または有償譲渡できると認識しているかどうかは「廃棄物に該当するか否かを判断する際の決定的な要素となるものではなく」、他の要素に照らして適切な利用の意思があると判断されない場合や、主として脱法的な処理を目的としたと判断される場合は、占有者の主張する意思の内容によらず廃棄物に該当すると明記している[2]。「うちは有価物だと思っている」「買主が有価物として受けている」は、それ自体では証拠にならない。
さらに指針は、再生後に自ら利用または有償譲渡が予定される物であっても、再生前の段階でそれ自体が利用・譲渡されない物であれば、その再生は廃棄物の処理であり法の適用があるとする[2]。「再生すれば売れる」は、再生前の物を有価物にしない。
契約書があっても通らない理由
有償譲渡契約があれば有価物、と考えるのは順序が逆だ。指針は、占有者と取引の相手方との間の有償譲渡の実績や契約の有無は「廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎず」と書き、市場の形成が明らかでない物については、法の規制を免れるために恣意的に有償譲渡を装う場合も見られるとして、契約の存在をもって直ちに有価物と判断しないよう求めている[2]。
名指しで挙げられているのは、廃プラスチック類・がれき類・木くず・廃タイヤ・廃パチンコ台・堆肥(汚泥や動植物性残さ、家畜のふん尿を堆肥化した物)・建設汚泥処理物(改良土等と称する物)だ[2]。これらは、有償の契約書があっても「装い」を疑われる前提で見られる。
効くのは契約書ではなく、価格の中身と広がりだ。指針が取引価値の確認事項として挙げるのは、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、そして当該相手方以外への有償譲渡の実績があることの3点だ[2]。価格が相場と比べて説明できるか、その相手にしか売れていないのではないか——行政が見るのはここで、契約書はその入口でしかない。
この構造を裏返すと、排出事業者が自ら利用する場合の扱いが分かる。指針は、排出事業者の自ら利用については必ずしも他人への有償譲渡の実績等を求めず、社会通念上その用途で一般に行われている利用で、客観的な利用価値があり、確実にその用途に供されるかどうかで判断するとしている[2]。一方で、中間処理業者が中間処理後の物を自ら利用する場合は、排出事業者の場合とは異なり、他人に有償譲渡できる物かどうかを含めて総合的に判断するとされる[2]。処理業者の「自社で使う」は、排出事業者のそれより厳しく見られる。
逆有償の落とし穴は運搬区間にある
売却代金より運送費が高い、いわゆる「逆有償」は、それだけで廃棄物になるわけではない。平成25年の規制改革実施計画を受けて環境省が出した事務連絡は、「販売価格より運送費が上回ることのみにより、経済合理性がなく取引価値がないと判断するものではない」と明記し、判断は指針の取引価値の基準に従うとした[4]。運送費が高いという一点ではなく、運送費を含めた価格全体に双方の経済合理性があるかで見る。
ただし、この事務連絡のQ&Aには、処理業者が見落としやすい条件が2つ書かれている。
1つ目は、時点の問題だ。有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降は廃棄物に該当しないと判断して差し支えない、というのが通知の趣旨で、その「占有者となった時点」は譲受人が引渡しを受けた時点と解してよいとされる[4]。つまり、買主の手に渡った後は有価物として扱える。
2つ目は、その手前の区間だ。引渡し側から譲り受ける者までの間の収集運搬については、別途、行為の着手時点における客観的状況から5要素を総合して判断する必要がある[4]。買主が有価物として受け取ることが決まっていても、排出事業者の手元を離れてから買主に着くまでの運搬が自動的に有価物の運搬になるわけではない。運送費を引渡し側が負担して手元で逆有償になっている場合、その区間の運搬は廃棄物の収集運搬と判断されうる——そのときは収集運搬の許可とマニフェストの話になる。
よく「有価物として売るから運搬の許可はいらない」と言われるが、それは「誰が運ぶ区間を、どの時点で見るか」という前提が抜けている。判断は行為ごと、着手時点ごとに行う[2]。同じロットでも、運搬は廃棄物、買主の処理段階では有価物、という答えがありうる。
有価物と認められても規制が残る場面
「有価物なら廃棄物処理法の外」という理解は、現在の条文ではもう成り立たない。2つの方向から、有価物側にも規制がかかっている。
1つは有害使用済機器だ。法第17条の2は、使用を終了し収集された機器(廃棄物を除く)のうち、一部が原材料として相当程度の価値を持ち、不適正な保管や処分で人の健康や生活環境に被害を生じるおそれがあるものを「有害使用済機器」とし、その保管または処分を業として行う者に都道府県知事への事前の届出と、政令で定める保管・処分の基準の遵守を義務づけている[1]。対象機器は施行令第16条の2に32品目が列挙され、エアコン・冷蔵庫・洗濯機・テレビ・パソコン・携帯電話端末など、一般消費者が通常生活で使う機器とその附属品が入る[5]。いわゆる雑品スクラップはここに当たる。条文が「廃棄物を除く」と明記しているとおり、これは廃棄物ではない物に対する規制だ。行政処分の指針も、廃棄物該当性の判断で廃棄物でないとされた機器については、有害使用済機器としての該当性を適切に判断するよう求めている[2]。有価物と認められたら終わり、ではなく、次の判断が待っている。
もう1つは、再生資源の側から事業者に義務をかける法律の流れだ。改正資源有効利用促進法(2026年4月施行)は、廃棄物処理法とは別の入口から資源の循環利用に義務と認定の仕組みを置いており、「有価物だから法の外」という前提を崩す方向にある。
逆方向の例外も押さえておく。専ら物(古紙・くず鉄・あきびん・古繊維)は廃棄物であることを前提に、その処理を専ら業とする者について業の許可を不要としている。「廃棄物だが許可は不要」であって、「有価物だから許可が不要」ではない。この2つを混同すると、専ら物以外の有価物にまで「許可不要」を広げてしまう。
案件を受ける前にそろえる証拠——次にやるべきこと
これは物の問題ではなく、取引の設計と証拠の問題だ。案件を受ける前に確認するのは、契約書の有無ではなく、5要素を行政に説明できる材料が手元にあるかどうかになる。
行政処分の指針は、都道府県が「有価物と称する廃棄物」の不適正処理に措置命令を出す際、事前にその物が廃棄物であることを指導し、指導を行った記録を作成しておくことを求めている[2]。行政から一度「それは廃棄物だ」と言われた時点で、以後の扱いは記録に残り、措置命令の前提になる。また、保管と称する野積みについては、保管か処分かにかかわらず、生活環境保全上の支障のおそれがあれば措置命令の対象になるとされる[2]。「有価物として保管している」は、野積みの状態を正当化しない。
判断が都道府県によって異なる場合の扱いも、令和3年の指針改定で明記された。都道府県間で廃棄物該当性の判断が異なる場合は、関係する都道府県との連絡調整や判断の統一化を図り、問題が生じている場合は環境省にも相談するよう求めている[2]。複数の自治体をまたぐ案件で判断が割れたときは、この条項を根拠に照会を求める道がある。
判断フロー
物の性状を確かめる——用途に求められる品質を満たし、飛散・流出・悪臭のおそれがないか。JIS等の規格や環境基準があればその適合を記録する
排出の状況を確かめる——需要に沿った計画的な排出か。搬出計画と受入側の需要、保管の状態を記録する
通常の取扱い形態を確かめる——その物に製品としての市場があるか。同種の物が通常は廃棄物として処理されていないか
取引価値を確かめる——名目を問わず処理料金に当たる金品を受け取っていないか。運送費を含めても双方に利益が出る価格か。その相手以外への譲渡実績があるか
占有者の意思を確かめる——1〜4の証拠から、適切に利用または有償譲渡する意思が客観的に認められるか。認識の主張だけで足りると考えない
よくある誤解
