鉄スクラップの輸出単価は、ベトナム向けで円/kg台の攻防がずっと続いている。財務省「普通貿易統計 確報 品別国別表(輸出)」によれば、HS 7204.49-190(ベトナム向け)の輸出単価は2026年1〜7月の累計で49.6円/kgだ[1]。この数字を見て「それがH2の相場だ」と早合点する実務担当者が少なくないが、貿易統計の単価とH2の国内建値は前提も用途も異なるため、その理解のまま採算判断や売却交渉に進むと見当違いが生じやすい。
H2の相場という誤解と、実際に確認すべき数字
貿易統計の輸出単価とH2の国内建値は別物である。財務省の品別国別表は「金額÷数量」から導いた単価であって、取引所の建値でも国内ヤードの買取価格でもない[1]。しかも、HS 7204.49-190は鉄スクラップのうち一部の形態区分に対応するコードであり、ベトナム向けで49.6円/kg、バングラデシュ向けで51.6円/kgと、仕向地によって数円単位の差が出る[1]ため、同じ「鉄スクラップ」という大きなくくりだけで一律の相場観に置き換えることはできない。
よくある誤解として、「新聞に載る鉄スクラップ価格=H2の価格」という思い込みがある。市中で流通する鉄スクラップ価格報道は特定の取引条件・特定地域の建値を指すことが多く、H2という等級そのものを法令が価格と結びつけて定義しているわけではない。日本銀行「企業物価指数(2020年基準) 国内企業物価指数 品目」の「鉄屑」指数は2026年8月時点で195.5(2020年=100)だが(2026年9月25日取得、遡及改定あり)[2]、これも等級を区別しない集計指数であり、H2単体の動きを直接示す数字ではない。なお、より広い範囲を捉える日本銀行「企業物価指数(鉄鋼・非鉄金属)」の鉄鋼類別指数は2026年8月時点で146.6(2020年=100、2026年9月25日取得時点、遡及改定あり)であり、鉄屑単体の品目指数とは階層が異なる別の集計値である点にも注意したい[4]。実務では、どの統計が何を集計した数字なのかを見分けたうえで、自社が確認したいのが建値なのか、輸出単価なのか、あるいは市況全体の方向感なのかを切り分ける必要があり、その整理ができて初めて数字を採算判断や価格交渉に接続できる。
よくある誤解
正確な定義と根拠条文
H2とは、鉄スクラップの業界団体や流通現場で使われてきた等級区分の一つで、厚手・大型の鉄源スクラップを指す呼称として使われる。重要なのは、H2という呼称自体を廃棄物処理法令が定義しているわけではないという点であり、したがってH2という言葉から直ちに法的な取扱いが決まるわけではなく、実務では有価物か廃棄物かという別の判断軸を必ず重ねて確認しなければならない。
廃棄物処理法上、鉄スクラップが「廃棄物」に当たるかどうかは、有償で取引されるか、占有者の意思や性状から客観的に判断される。環境省の通知等で示される総合判断説の考え方が実務の拠り所になるが、これは法律の条文そのものではなく運用上の解釈であることに注意が必要だ。そのため、現場で「スクラップだから有価物」と短絡せず、契約条件、受渡実態、対価の流れを含めて個別に見ていく姿勢が求められ、判断の根拠を後から説明できるようにしておくことが実務上の安全策になる。
廃棄物処理法第2条は廃棄物の定義を置いているが、ここに「鉄スクラップ」や「H2」という語は出てこない。
この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
つまり、条文が示すのは「不要物」という性状面の定義であって、鉄スクラップの等級呼称には触れていない。
鉄スクラップが有価で取引され、排出事業者が対価を得て引き渡す「逆有償」ではない状態であれば、一般に有価物として扱われ、収集運搬業・処分業の許可の対象外になる場合がある。ただし有価・逆有償の判断は個別の取引実態によるため、迷う場合は自治体の廃棄物担当窓口で確認するのが実務上の対応になり、そこで確認した判断材料を社内記録として残しておくことが、その後の説明責任や監査対応の場面でも意味を持つ。
実務での実際の使われ方
実務の現場でH2という呼称が出てくるのは、主にヤードでの選別・格付けと、売却先(電炉・問屋)との取引条件のすり合わせの場面だ。収集運搬(収運)で持ち込まれた混合スクラップを、中間処理の工程でH1・H2・新断・シュレッダーなどに仕分け、品位ごとに売却単価を分ける。この仕分けの精度がヤードの収益を左右し、同じ重量を扱っていても最終的な粗利に差が出るため、H2の理解は単なる名称の問題ではなく収益管理そのものに関わってくる。
品位という言葉がよく使われるのもこの文脈である。同じH2という呼称でも、不純物の混入率や厚みのばらつきによって、買い手側の評価(建値からの増減)が変わる。これは条文で定まる話ではなく、取引先ごとの社内基準と信頼関係の積み重ねで決まる部分が大きい。だからこそ、名称だけを受け取るのではなく、どの程度の異物混入まで許容されるのか、サイズ条件はどうかといった実務条件を都度確認することが重要になり、その確認結果を担当者の記憶に頼らず共有できる形で残すことに実務的な意味がある。
価格動向を把握する上では、日本銀行「企業物価指数(2020年基準) 国内企業物価指数 品目」の「鉄屑」系列が参考になる。2026年6月は214.3、7月は210.8、8月は195.5(2020年=100、2026年9月25日取得、遡及改定あり)と、直近で下落基調にある[2]。ただしこの指数は鉄屑全般の集計値であり、H2単体の動きを切り出した数字ではない点は押さえておきたい。この指数は確報段階で過去の値が改定されることがあるため、経営判断の資料に使う際は取得時点を明記しておく実務上の配慮が要る。
輸出動向を見る場合は、財務省「普通貿易統計 確報 品別国別表(輸出)」のHS 7204.49-110(ベトナム向け)で54.5円/kg(2026年1〜7月累計、2026年9月25日取得)という値もある[1]。HSコードの桁が違うだけで数円の差が出ることから分かるように、輸出統計上も「鉄スクラップ」は一枚岩の価格を持たない。これは統計の不備ではなく、鉄スクラップ自体が形態・品位によって別の商品として扱われているという実態の反映だ。原料面では、日本銀行「企業物価指数(2020年基準) 輸入物価指数」の鉄鉱石(円ベース)が2026年8月時点で165.5(2020年=100、2026年9月25日取得時点、遡及改定あり)となっており、電炉・高炉双方の原料コスト動向もスクラップ需給に影響する背景として押さえておきたい[5]。したがって、実務で輸出単価を参照するなら、HSコード、仕向地、取得時点を自社の取扱品目と照合したうえで使うのが妥当であり、その照合作業を省くと社内資料の前提自体がずれるおそれがある。
混同されやすい用語との違い
H2と混同されやすい用語に、H1・新断(新断スクラップ)・シュレッダー(シュレッダースクラップ)がある。これらはいずれも業界慣行上の等級呼称であり、法令上の統一定義は存在しない。そのため、名称が似ていても法的分類を表しているわけではなく、取引現場での品質・形態の目安として理解するのが適切である。
H1は一般にH2よりも薄手・小型の鉄源を指すとされ、新断は工場で発生する裁断くずなど比較的純度の高いものを指すとされる。シュレッダーは自動車解体などで発生したスクラップを破砕機にかけたものを指す。これらの呼称の線引きは、公的統計や条文で定まっているものではなく、業界団体や個別企業間の取引慣行に基づく。参考までに、同じ財務省統計でステンレススクラップ(HS7204.21・韓国向け)の輸出単価(貿易統計から算出・2026年1〜7月累計、2026年9月25日取得)を見ると219.8円/kgとなっており、普通鋼のH2系統とは一桁近く異なる水準で取引されていることからも、鉄スクラップが素材区分ごとに別の商品として扱われている実態がうかがえる[1]。この違いを踏まえずに単純比較すると、価格感や採算の読みを誤るおそれがある。
ここで注意したいのは、特別管理産業廃棄物(特管)や建設廃棄物(建廃)、がれき類、木くずといった廃棄物処理法上の分類と、H1・H2のような鉄スクラップの等級呼称は、まったく別の軸にあるという点だ。前者は廃棄物処理法施行令第2条などが定める産業廃棄物の種類区分であり、後者は有価物として取引される際の商品等級である。排出事業者責任の観点で言えば、鉄スクラップが有価物として扱われる限り、収運・処分の許可品目や委託契約書の対象にはならない。ただし逆有償となった瞬間に産業廃棄物としての扱いに切り替わる可能性があるため、取引条件の変化には注意が必要になる。
よく「スクラップは有価物だから委託契約は不要」と言われるが、それは取引が常に有償であるという前提が抜けている。市況の下落局面では、同じ荷姿でも逆有償に転じることがあり、その瞬間から廃棄物処理法上の委託基準(施行令第6条の2)の適用対象になりうる。この切り替わりを見落とすと、無許可の収集運搬・処分委託という状態に陥るおそれがあるため、月次の取引条件確認と契約実態の点検をルーチン化しておくことが実務上の防波堤になる。
次にやるべきことは、自社が現在扱っている鉄スクラップの等級呼称(H1・H2・新断・シュレッダー等)について、取引先との間でその定義と格付け基準を書面で確認することだ。あわせて、直近の取引が有価か逆有償かを月次で点検し、逆有償に転じた品目があれば廃棄物処理法上の委託基準に沿った契約に切り替える準備を進めるのが実務上の次の一歩になり、この確認作業を定例化しておくことが、後からの解釈違いや契約不備を避けるうえで現場にとって具体的な意味を持つ。
