ブラックマスは「金属くずとして扱えば足りる」と思われがちだが、条文を当たると話は違う。廃棄物処理法上、黒色粉体そのものを指す品目区分は存在せず、破砕前の使用済みLiB(リチウムイオン電池)がどの産業廃棄物として搬入されたか、そして選別後の物がどの品目・どの判定区分に落ちるかを、工程ごとに確認し直す必要がある。結論からいえば、選別手順を組む前に許可品目と特管(特別管理産業廃棄物)判定の切り分けを終わらせておかないと、後工程がまるごとやり直しになる。

ブラックマスの手順を決める前に、まず数字で位置を確認する

指標

数値

出典・年次

出口側の循環利用率

43.3%

環境省『令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』(令和4年度)[1]

資源生産性

47.5万円/トン

同上(令和4年度)[1]

最終処分量

12.5百万トン

同上(令和4年度)[1]

出口側の循環利用率は、廃棄物として排出された資源のうちどれだけが再び資源として使われたかを示す指標だ[1]。ただしこの系列は2016年度以降に推計方法が見直されており、2015年度以前の数値と単純に並べて伸び率を語ることはできない[1]。また、白書の性質上、公表される年度は現状より約3年遅れるため、令和7年版でも最新は令和4年度実績であり、今この瞬間の数字ではない。

ブラックマスの回収・選別が「都市鉱山」の一角として語られる背景には、こうした循環利用率の底上げという政策的な文脈がある一方で、現場の許可・契約実務はこの数字とは別の条文で動いているため、統計上は前向きな話であっても、許可品目が合っていなければ受け入れ自体ができないという現実を切り分けて理解する必要がある。さらに、同白書によれば入口側の循環利用率は令和4年度で16.3%であり[1]、出口側とは別に把握しておく必要がある指標だ。また再生可能資源及び循環資源の投入割合は令和4年度で29.1%となっており[1]、ブラックマスのような再生資源の投入拡大はこの指標の分子側に位置づけられるため、数字の意味を整理したうえで許可実務とは切り分けて読むことが、実際の受入判断を誤らないための出発点になる。

許可品目と特管判定、どちらを先に確認するか

先に確認すべきは許可品目であり、特管判定はその次だ。産業廃棄物処分業を営むには廃棄物処理法第14条第1項の許可が要る[2]。この許可は品目ごとに下りるため、破砕前のLiB単体を受け入れる許可と、破砕・選別後のブラックマス(多くは金属くず・廃プラスチック類・汚泥に近い性状として扱われる)を扱う許可は、同一とは限らない。

よくある取り違えは「LiBの許可さえあれば選別工程も含めて対応できる」という思い込みだ。だが、施行令別表に列挙される特別管理産業廃棄物の判定は、品目名ではなく性状(引火点・腐食性・有害物質の溶出量など)で決まるため[3]、ブラックマスに含まれるコバルト・ニッケル・リチウム化合物の溶出量次第で、同じ見た目の粉体でも特管扱いになる場合とならない場合がある。

これは選別技術の問題ではなく、契約と許可の設計の問題でもある。委託契約書に記載する品目・処分方法が、実際に選別工程で生じる中間生成物(磁性分・非磁性分・微粉)のそれぞれに対応しているかを、受け入れ前に排出事業者と処分業者の双方で突き合わせておく必要があり、排出事業者責任は委託後も消えないため、選別後の残さがどう処分されたかまでマニフェスト(管理票)で追跡できる状態を作っておくことが前提になる。

廃棄物処理法 第12条第6項

事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。

つまり、委託基準を満たさない委託そのものが違反になる。

条文が定めるのは「基準に従う義務」であり、選別の技術的な正しさではない。委託基準を満たしているかどうかは、電子マニフェスト・JWNETの記録と委託契約書の記載が一致しているかで判断されるのが実務の現実であるため、最初に許可品目を確認してから特管判定に進む順序を崩さないことが、受入後の契約修正や出荷停止といった後戻りを防ぐ具体的な運用になる。

破砕から出荷まで、六つの工程

選別手順自体は業者ごとに設備が違うため一様ではないが、共通する骨格は次の六段階だ。ここが記事の核になる部分であり、各工程で「何を確認すれば次工程に進めるか」を軸に説明する。

Step1 受入・分別搬入されたLiBが完成品(電池パック)か、すでにセル単体かで、この後の破砕条件が変わる。パックのままでは制御基板や外装樹脂が混入し、選別精度が落ちる。受入時点で品目コードと荷姿を記録し、マニフェストの記載と現物を照合する。

Step2 放電・安全化LiBは内部に残留電力を持つため、破砕前に放電処理を行うのが実務上の前提になる。残電圧が高いまま破砕すると内部短絡による発熱・発火のリスクが上がる。この段階を省略した受入は、条文上の義務というより、施設の火災予防上の管理として押さえるべき工程だ。

Step3 粗破砕セルを機械的に破砕し、外装(アルミ・鉄)と内容物(電極材・セパレータ・電解液成分)を大まかに分離する。粗破砕直後の状態はまだブラックマスと呼べる粒度に達していない。

Step4 磁選破砕物から鉄系の混入物を磁力で除去する。電池外装に鉄が使われている場合、ここで大部分が抜ける。磁選後の非磁性分が、ブラックマスの母材に近づく。

Step5 ふるい分け・風選粒度差・比重差を利用して、アルミ箔片や樹脂片といった軽量物と、コバルト・ニッケル・リチウムを含む微粉(狭義のブラックマス)を分ける。ふるい分けの目開きと風選の風量設定は設備依存が大きく、ここでの分離精度が出荷先のケミカルリサイクル事業者が求める純度基準を満たせるかを左右する。

Step6 保管・出荷選別後のブラックマスは、水分・不純物混入を避けるため密閉容器での保管が基本になる。出荷先が国内のケミカルリサイクル業者か、あるいは水平リサイクル(電池材料への再資源化)を掲げる事業者かによって、求められる分析値(金属含有率など)が変わる。出荷時にも委託契約書とマニフェストの整合を再確認する。

この六段階のどこかで工程が変わるたびに、生成物の品目区分が変わりうる。特に磁選後の非磁性分(Step4の出力)は、そのまま金属くずとして扱ってよいのか、汚泥やばいじんに近い性状として扱うべきかで判断が分かれることがあり、ここは設備や粒度によって答えが変わるため、施設ごとに溶出試験を実施し、判定結果を記録として残しておくことが実務上の防御線になり、その記録の有無が次工程への進め方と出荷可否の説明根拠に直結する。

二次資料に書かれた「金属くず」という説明のズレ

二次資料の多くは、ブラックマスを一括して「金属くず」と説明する。しかし条文を当たると、この説明は品目名の便宜的な当てはめに過ぎない。廃棄物処理法施行令が定める特別管理産業廃棄物の判定は、性状試験(有害物質の溶出量)によるものであり、品目名で自動的に決まるわけではない[3]。よく「ブラックマスは金属くずだから普通産廃で問題ない」と言われるが、それは溶出試験を実施していないという前提が抜けている。

よくある誤解

誤解ブラックマスは金属くずだから普通産廃扱いで良い
実際溶出試験の結果次第で特管に該当する場合がある
誤解LiBの許可があれば選別後の生成物も同じ許可でカバーできる
実際生成物ごとに品目コードが変わり得るため契約の分割が必要になる場合がある
誤解マニフェストは排出事業者が書けば処分業者の責任は終わる
実際委託後も排出事業者責任は続き、処分状況の確認義務がある
誤解放電処理は任意の安全対策に過ぎない
実際破砕工程の火災予防として実質的に前提となる

公表された行政処分事例のうちLiB由来のブラックマスに特化したものは、現時点で確認できていない。したがって、ここは公表事例の有無だけで安全側に判断するのではなく、条文上の要件と実務で外しやすい点の対比に置き換えて読むのが適切であり、実務で外しやすいのはStep4・Step5で生じる中間生成物の品目区分の再判定を省略する点なので、ここを省くと出荷後に受入先から突き返される事態につながるという意味で、二次資料の説明をうのみにせず、条文と試験記録に立ち返って確認する必要がある。

現場での判断基準

判断に迷ったときの順序は、許可→委託契約→性状確認→工程設計の順で戻るのが基本だ。これは選別技術の巧拙より先に押さえるべき前提であり、多量排出事業者や優良認定(優良産廃処理業者認定制度)を取得している事業者との取引では、この順序の記録がそのまま監査対応になる。

判断フロー

  1. 受け入れるLiBおよび破砕後生成物の許可品目を許可証で確認する——記載品目と実際の生成物が一致しているかを見る

  2. 委託契約書の処分方法欄が選別工程の各段階(破砕・磁選・ふるい分け)を包含しているかを確認する——包含していなければ契約変更が要る

  3. 選別後の中間生成物について溶出試験を実施したかを確認する——未実施なら特管判定が保留のままになる

  4. 特管に該当する場合は特別管理産業廃棄物管理責任者による確認記録を残す——記録がないと委託基準違反のリスクが残る

  5. 出荷先の受入基準(金属含有率・水分など)と自社の選別精度が整合しているかを確認する——整合していなければ出荷先を見直す

  6. マニフェストの記載品目・数量が実際の生成物の流れと一致しているかを最終確認する——一致していなければ電子マニフェスト(JWNET)上で訂正する

この順序で戻る理由は、工程設計だけを先に詰めても、許可品目や委託契約が追いついていなければ受入・処分・出荷のどこかで必ず整合が崩れるからだ。迷ったときほど技術条件から離れ、許可証、契約書、性状確認記録、マニフェストの順に照合し直す運用を定着させることが、監査対応だけでなく日常の受入判断にも直接効いてくるため、判断基準は抽象論ではなく確認順序として現場に落とし込んでおく必要がある。

次にやるべきこと

まず自社の許可証を開き、破砕後生成物がどの品目コードでカバーされているかを確認するのが最初の一歩になる。次に、既存の委託契約書がStep1からStep6までのどの範囲を「処分」として記載しているかを洗い出す。溶出試験の実施記録が無ければ、特管該当性の判断が保留状態のまま出荷していることになるため、優先して手当てする。

ブラックマスの選別は技術的には磁選・ふるい分け・風選という比較的単純な組み合わせだが、法的な位置づけは工程ごとに変わりうる。判断に迷ったら第12条第6項に戻る。そこに書いてあるのは、委託基準に従う義務であって、選別の精度そのものではないため、次に取るべき行動は設備条件の見直しより先に、許可証・契約書・溶出試験記録・マニフェストの整合を一つずつ確認し直すことであり、その確認結果がそろって初めて、どの工程をどの条件で回すかを実務として安全に決められる。