古紙のキロ単価は、輸出先が変わるだけで数十銭から1円単位で動く。財務省の貿易統計から算出した輸出単価(貿易統計から算出・2026年1-7月:確報の累計)では、ベトナム向けが22.4円/kg、台湾向けが22.5円/kg、マレーシア向けが22.1円/kg[1]であり、0.4円の差であっても収運のトラック1台分に換算すれば利益率を左右する幅になる。
古紙のキロ単価、輸出3カ国でこれだけ違う
古紙を「1kgいくら」でひとまとめに語るのは難しく、実際には仕向地・HSコード・時期によって数字が割れるため、単一の相場として扱うと現場の判断を誤りやすい。
指標 | 数値 | 出典・年次 |
|---|---|---|
古紙輸出単価(HS4707.10・ベトナム向け) | 22.4円/kg | 財務省貿易統計から算出(2026年1-7月累計)[1] |
古紙輸出単価(HS4707.10・台湾向け) | 22.5円/kg | 同上[1] |
古紙輸出単価(HS4707.30-900・マレーシア向け) | 22.1円/kg | 同上[1] |
古紙利用率(紙・板紙合計) | 66.7% | 日本製紙連合会(2025年)[2] |
古紙回収率(紙・板紙合計) | 81.3% | 日本製紙連合会(2025年)[2] |
この表の輸出単価は、財務省が公表した金額と数量から算出した導出値であり、財務省自身が単価として発表した数字ではない[1]。さらに、現行年の年初来累計を割った値なので、「2026年通年の平均単価」ではなく「1〜7月の累計を割った値」として扱う必要があり、ここを取り違えると下期の相場変動を織り込まないまま年間見通しを立てることになってしまう。
輸出単価は国内の建値と同じ数字か
同じではない。財務省貿易統計の単価は税関を通過した貨物の金額÷数量であり、ヤードで支払われる問屋建値でも、排出事業者が受け取る売却価格でもない[1]。そのため、国内の取引価格を知りたい場合は、輸出統計とは別の市中相場を当たる必要がある。参考として、同じ財務省貿易統計から算出した値だが、鉄スクラップの輸出単価(HS7204.49-190・ベトナム向け、2026年1-7月累計、2026年9月13日時点集計)は49.6円/kgであり、古紙とは水準そのものが異なる[1]。単価の絶対値は品目ごとに別世界であり、他品目の水準を古紙の相場観の参考にはできない。
よく「古紙は有価物だから廃棄物処理法の対象外」と言われるが、その見方には、取引が常に黒字であるという前提が抜け落ちている。環境省がまとめた廃棄物該当性の判断資料は、物の性状・排出の状況・通常の取扱い形態・取引価値の有無・占有者の意思という5要素を総合的に勘案するとしており[3]、このうち取引価値の有無が焦点になりやすい。大阪府の実務FAQは、売却代金と運送費を相殺して排出事業者側に経済的損失が生じる場合を「運賃による逆有償」「手元マイナス」と呼び、この状態は廃棄物に該当すると整理している[4]。
したがって、古紙の輸出単価が下がった局面ほど、国内の収集運搬契約で逆有償に転じていないかを確認する必要がある。これは単なる相場変動の話ではなく、契約と委託基準の運用に直結する問題であり、逆有償に転じた区間は委託契約書・マニフェスト(管理票)・許可品目の整合を産業廃棄物の収集運搬として組み直す必要が出てくる。電子マニフェスト(JWNET)の運用対象になるかどうかも、この一線をどちら側で扱っているかで変わってくるため、価格表だけで済ませず契約実態まで確認することに実務上の意味がある。
品種・仕向地で単価は分解できるか
分解はできるが、単純合算はできない。同じ2026年1-7月累計でも、HS4707.10(ベトナム22.4円/kg・台湾22.5円/kg)とHS4707.30-900(マレーシア22.1円/kg)は品目コードが異なる古紙区分であり、系列をまたいで平均を取ると単価としての意味を失う[1]。
品位(禁忌品混入の有無、水分、色上質か新聞古紙かなど)によって同じ「古紙」でも取引条件が変わるのは、この品目コードの違いが実務に落ちてきたものと見てよい。加えて、同様の理由で、廃プラスチックの輸出単価(HS3915.90-900・マレーシア向け、2026年1-7月累計、2026年9月13日時点集計)は71.2円/kgであり、古紙の輸出単価の3倍超に達する[1]。品目コードが変われば単価のレンジそのものが別次元になるため、複数の資源循環品目を扱う事業者ほど、自社が見ている数字の母集団を取り違えないことが実務上の前提になる。
参考までに、古紙とは別ルートの数字も見ておく。公益財団法人日本容器包装リサイクル協会がまとめる紙製容器包装の引取量は、令和8年5月が1,017t、6月が952t、7月が1,041tだった[6]。ただし、この数値は容器包装リサイクル法第32条に基づく指定法人ルートの実績であり、市町村独自ルート(同法第33条)を含まない[6]。全国の紙リサイクル総量とは別の数字であり、産業古紙・市中回収古紙とも母集団が異なる点に注意が要る。同じ容リ協会の集計では、PETボトルの引取量は2026年7月が14,254tであり[6]、紙製容器包装の同月実績(1,041t)とは規模が一桁以上異なる。取扱品目ごとに市場の厚みが異なる点も、古紙単体の相場観だけで判断しないための材料になる。
回収率は右肩上がりというのは本当か
二次資料では「古紙の回収率は年々上昇している」と整理されがちだが、古紙再生促進センターの資料を当たると、実態は横ばいの踊り場と見るほうが近い。つまり、長期では伸びていても、足元まで一直線に上がり続けているわけではない。
同センターによれば、古紙回収率は1980年代に46%から50%へ伸びたのち1992年から96年にかけて51%で足踏みし、その後は80%前後の水準で推移、2020年に一時的に84.9%へ達したと記録されている[5]。日本製紙連合会の集計では、2025年の紙・板紙合計の古紙利用率は66.7%、回収率は81.3%だった[2]。
この2つの数字を並べると、コロナ禍で紙の消費が落ち込んだ2020年に回収率だけが跳ね上がり、その後は元の水準に戻ってきた形が見える。回収量が需要を上回る局面では、余剰分の行き先が輸出に依存する構造そのものは変わっておらず、輸出単価の変動が国内の買取価格に波及しやすいのは、この需給構造によると理解しておくと、その後の契約条件や販売先の見直しを考える際の前提を置き違えずに済む。
この数字から、収運・中間処理はどう動くべきか
ここまでの数字が示す実務上の論点は3つに絞られる。第一に、輸出単価は国内建値の代わりにならない指標であり、契約更新のたびに自社のヤードでの実勢価格を確認する作業を外部データで代替できない。第二に、古紙は有価物として扱われる場面が多いものの、逆有償に転じた瞬間から産業廃棄物としての委託基準・マニフェスト運用が必要になる可能性がある[3][4]。第三に、輸出単価がHSコード・仕向地単位で細かく分かれている以上、自社の主要販売先がどの区分に属するかを把握しないまま「古紙相場が下がった」とだけ捉えると、実際の値動きとずれた判断になりやすい。
多量排出事業者との委託契約や優良認定(優良産廃処理業者認定制度)の更新を控えている中間処理業者であれば、古紙を含む委託契約書の対価条項が現在の取引実態と合っているかを、この時期に見直しておく意味は大きい。特に、収運区間の運賃が上昇し続けている状況では、同じ売却単価でも手元収支がマイナスに転じるタイミングが早まる。特別管理産業廃棄物管理責任者を置く体制とは別に、古紙のような「有価物と廃棄物の境界にある品目」を扱う担当者を決めておくと、逆有償の発生に気づくのが早くなり、その後の契約見直しや運用変更にも着手しやすくなる。
よくある誤解
判断フロー
自社が扱う古紙の主な販売先・HSコード区分を確認する——区分が違えば単価の比較対象にならない
直近の売却契約について運賃込みの手取りを月次で計算する——逆有償の兆候を早期に把握する
手取りがマイナスに転じた区間があれば、委託契約書と許可品目の対応関係を点検する
マニフェスト(電子の場合はJWNET)の運用対象になっているかを担当者間で確認する
数字から言えるのは、古紙の相場を1つの指標で追いかける運用には実務上のリスクがあるということだ。まず自社の主要な古紙販売先がどのHSコード・仕向地に対応するかを確認し、直近数カ月の運賃込み手取りがプラスを維持しているかを洗い出すところから始めれば、その後に契約・許可・マニフェスト運用のどこを点検すべきかが見えやすくなる。
