鉄スクラップの輸出単価は、同じHSコードでも仕向地が変わるだけでkg当たり2円前後動き、財務省「普通貿易統計 確報 品別国別表(輸出)」(貿易統計から算出・2026年1-7月:確報の累計)によれば、HS7204.49-190のベトナム向けは49.6円/kg、バングラデシュ向けは51.6円/kgだ[2]。相場を「一つの数字」で語ろうとすると、この差を見落とすことになる。
鉄も非鉄も上向き——直近3か月の企業物価指数を読む
日本銀行「企業物価指数(鉄鋼・非鉄金属)」(2026年9月13日取得時点)によれば、鉄鋼・非鉄金属ともに8月にかけて上昇しており、国内企業物価指数の鉄鋼は2020年=100で2026年6月が145.1、7月が146.3、8月が146.6と3か月連続で伸び[1]、非鉄金属はさらに動きが大きく、同時期に252.5→256.2→261.1と推移している[1]。
以下は本記事で扱う主要な指標をまとめたものだ。
指標 | 数値 | 出典・年次 |
|---|---|---|
国内企業物価指数 鉄鋼(2020年=100) | 146.6 | 日本銀行「企業物価指数(鉄鋼・非鉄金属)」2026年8月・2026年9月13日取得時点 |
国内企業物価指数 非鉄金属(2020年=100) | 261.1 | 同上 |
鉄スクラップ輸出単価(HS7204.49-190・ベトナム向け) | 49.6円/kg | 財務省「普通貿易統計 確報 品別国別表(輸出)」貿易統計から算出・2026年1-7月累計 |
ステンレススクラップ輸出単価(HS7204.21・韓国向け) | 219.8円/kg | 同上 |
企業物価指数は速報から確報にかけて過去数か月分が改定される統計だ[1]。そのため、今回引いた6〜8月の値も後日の公表で数値が動く可能性がある点は踏まえておく必要があり、ヤードで日々つく建値とは別の統計であることも押さえておきたい。指数はあくまで「鉄鋼」「非鉄金属」という大分類の物価水準を示すもので、個々の品位・混級による値引き幅までは表さないため、現場での価格判断に使う際は何を示す数字なのかを切り分けて読む姿勢が欠かせない。
半年前と何が違うのか
日本銀行の同指数で見ると、非鉄金属は6月の252.5から8月の261.1まで3か月で8.6ポイント上がった一方で[1]、鉄鋼は145.1から146.6で、1.5ポイントの上昇にとどまる[1]。このため、少なくとも足元の指数の動きだけを見れば、非鉄金属のほうが鉄鋼より上昇の勢いが目立つと読める。
ただし、このポイント差だけを見て「非鉄のほうが値上がり率が高い」と断定するのは適切ではなく、企業物価指数は2020年を100とした指数で、鉄鋼と非鉄金属では母材構成も価格変動要因もまったく違う。よく「指数が上がっている=買取価格も同じ比率で上がる」と言われるが、それは指数と建値がひとつの母集団を共有しているという前提が抜けているためで、指数は品目群全体の加重平均であり、現場のヤードで実際につく1kg当たりの値段とは別の系列にとどまることを踏まえて読まなければ、相場観をそのまま実務判断に持ち込んでしまう。
輸出単価の側からも変化は見える。同じ鉄スクラップでも、HSコードが変われば単価は大きく動く。財務省統計から算出した値では、HS7204.49-110(ベトナム向け)が54.5円/kgなのに対し、HS7204.49-190(同じくベトナム向け)は49.6円/kgとなっている[2]。仕向国が同じでも、品目コードの違いだけで5円近い差が出ている計算だ。これは相場が一枚岩ではなく、コード・仕向地・品位の組み合わせごとに別々に動く市場だということを示している。同じ財務省統計(貿易統計から算出・2026年1-7月:確報の累計、2026年9月13日取得時点)を古紙で見ると、HS4707.10のベトナム向けは22.4円/kg、台湾向けは22.5円/kgとほぼ同水準にとどまり、仕向地差だけで値が動く度合いは品目によって大きく異なることがわかる[2]。したがって、半年前との違いを把握する際も、単に「市況が上がったか下がったか」ではなく、どのコードで、どの仕向地で、どの品位が動いたのかまで分けて見る必要がある。
区分が変わると値も変わる——有価物と廃棄物の境目
これは価格だけの問題ではなく、許可制度上の区分の問題でもある。金属スクラップは値がつけば有価物として取引されるが、値が下がって逆有償になれば産業廃棄物としての扱いに変わるため、相場の変化を営業上の話だけで済ませると、許可・契約・管理票の実務にずれが生じやすい。
二次資料では「金属くずは資源だから廃棄物処理法の対象外」とされがちだが、条文を当たると話はそう単純ではなく、廃棄物処理法は事業活動に伴って生じたものを対象に据えており、占有者が自ら利用し又は他人に有償で譲渡できるかどうかが判断の軸になる。根拠は同法が定める産業廃棄物の定義規定(第2条第4項)にあり[3]、値がつく前提で保管していたスクラップが逆有償に転じた瞬間、許可品目・委託契約書・マニフェスト運用のすべてが「廃棄物」側のルールに切り替わるため、価格の下落を確認した時点で法的位置付けまで見直す必要が出てくる。
委託に回す場合の実務上の根拠は次の条文になる。
事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
つまり、委託基準を満たさない委託そのものが違反になる。
有価物として買い取っていたスクラップが逆有償に転じた途端、委託契約書なしで引き渡しを受ければこの条文への抵触が生じる[3]。マニフェスト(管理票)なしで動かした荷が、後日「実は産業廃棄物だった」と評価される展開は、収運・中間処理どちらの現場でも起こり得る。特に鉛蓄電池やシュレッダーダストが混入するロットは、条件によって特別管理産業廃棄物に該当し得るため、特別管理産業廃棄物管理責任者の関与とマニフェスト運用を切り分けて確認しておく必要があり、実務上は受入時点の判定記録まで含めて整えておく意味が大きい。つまり、区分の切り替わりを見逃さないためには、価格表だけでなく受入判定と帳票運用を一体で管理することが現場の防波堤になる。
輸出単価にも区分の影響は表れる。ステンレススクラップ(HS7204.21・韓国向け)は219.8円/kgと、普通鋼スクラップの数倍の水準だ[2]。品位・合金組成によって単価が数倍単位で開くという事実は、ヤードでの選別・保管の精度がそのまま収益差になることを意味している。同じ論理は廃プラスチックにも当てはまり、同財務省統計(貿易統計から算出・2026年1-7月:確報の累計、2026年9月13日取得時点)ではHS3915.20(マレーシア向け)が54.5円/kg、HS3915.90-110(台湾向け)が102.8円/kgと、品目コードの違いだけで単価が倍近くまで開いている[2]。したがって、価格差の背景をコード・品位・区分のどこに求めるかを切り分けて見ない限り、現場で取るべき対応を誤るおそれがあり、単価差を見つけたときほど分類と取扱い条件の確認が重要になる。
よくある誤解
処理業者にとっての意味
処理業者にとって重要なのは、相場の高低そのものより、区分の切り替わりをどう検知するかという運用である。品位が落ちた、荷姿が悪化した、引取価格がゼロに近づいたといった変化点を社内でどう拾うかによって、許可品目・委託契約書・マニフェストの整合性を守れるかどうかが変わってくる。
排出事業者責任の観点でも、逆有償への転換は排出事業者・処理業者双方に影響する。多量排出事業者に該当する排出先であれば、処理計画・実施状況報告の対象品目に金属くずが含まれているかどうかも合わせて確認しておきたい。優良認定(優良産廃処理業者認定制度)を取得している事業者にとっては、価格変動が激しい品目ほど契約書・マニフェストの記載整合を保つ体制そのものが審査対象になり、平時からの記録と確認手順の精度が問われることになるため、営業判断と法務的な確認を切り離さずに運用する体制づくりが実務上の意味を持つ。
積替保管や中間処理を挟む場合は、逆有償転換のタイミングが収運と中間処理のどちらの帳簿で先に表れるかも変わる。建廃由来のがれき類・木くずに混じって出てくる金属くずは、品目としては金属くずでも搬入経路によって管理の主体が違う点も見落としやすく、受入部門と営業部門、さらに帳票管理の担当者まで含めて認識をそろえる必要がある。こうしたすり合わせを平時から行っておけば、価格変動が起きた局面でも誰が何を確認するかが明確になり、受入停止や帳票差し戻しの判断を現場で迷いにくくなる。
判断フロー
受入ロットの買取価格がプラスかゼロ・マイナスかを確認する——マイナスなら産業廃棄物としての委託契約書の要否を検討する
荷姿に鉛蓄電池・混合廃棄物が含まれていないかを確認する——含まれていれば特別管理産業廃棄物管理責任者に連絡する
許可証の許可品目欄に該当区分が記載されているかを確認する——記載がなければ受け入れ可否を判断する前に確認を止める
電子マニフェスト(JWNET)の登録品目が実荷と一致しているかを確認する——不一致があれば登録を訂正してから搬出する
輸出向けロットであれば仕向地・HSコードごとの単価差を社内の建値台帳と突き合わせる——突き合わせ結果を月次の相場記録に反映する
次にやるべきこと
まず、直近の買取価格がゼロ近傍まで落ちているロットが自社にあるかどうかを台帳で洗い出すことから始める。そのうえで、該当ロットについて委託契約書・マニフェストの整備状況を確認し、必要であれば許可品目欄の記載と照らし合わせる。日本銀行の企業物価指数は速報後に改定される統計であるため[1]、社内の価格判断に使う場合は取得日を明記したうえで、確報の公表時期に合わせて数値を更新する運用にしておくと、後日の食い違いを避けられ、判断根拠の説明もしやすくなる。加えて、価格が動いたロットだけを個別に追うのではなく、受入判定・契約・マニフェスト・台帳更新の流れが連動しているかを見直しておけば、次に同様の局面が来たときに現場で取るべき行動を迷わず実行しやすくなる。
