使用済みリチウムイオン電池(LiB)を破砕・選別したあとに残る黒色の粉末がブラックマスであり、コバルト・ニッケル・リチウム・銅などを含む中間生成物として位置づけられる。環境省『令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』によれば、資源生産性は令和4年度で47.5万円/トンと、前年の46.0万円/トンから上昇している[1]。その一方で、入口側の循環利用率は16.3%にとどまり、2020年度以降ほぼ横ばいで推移している[1]。この二つの数字を並べると、国内の廃棄物から新しい資源を取り出す動きは期待ほど加速しておらず、その停滞感のなかでLiBリサイクルとブラックマスが注目を集めていることが読み取れる。

数字で見る循環経済とブラックマスの位置づけ

まず押さえておきたい数値を並べる。もっとも、ここで扱うのは循環経済全体の指標であり、ブラックマス単体の統計ではないため、そのまま個別市場の規模や処理実態を示すものではない点には注意がいる。

指標

数値(令和4年度)

出典・年次

資源生産性

47.5万円/トン

環境省『令和7年版 白書』[1]

入口側の循環利用率

16.3%

環境省『令和7年版 白書』[1]

出口側の循環利用率

43.3%

環境省『令和7年版 白書』[1]

最終処分量

12.5百万トン

環境省『令和7年版 白書』[1]

再生可能・循環資源の投入割合

29.1%

環境省『令和7年版 白書』[1]

これらの値は2016年度以降の推計方法で算出されたものであり、2015年度以前の値とは単純に比較できない[1]。また、ブラックマスそのものの発生量や国内処理量に関する公表統計は限られているが、少なくとも循環利用率が低い水準で足踏みしているという構造のなかに、LiBリサイクルという成長分野が位置づけられている点は見落とせない。

ブラックマスの用途は、湿式製錬(ケミカルリサイクル)でコバルト・ニッケル・リチウムを個別に回収し、新しい電池材料へ戻す工程にある。これは廃棄物を単に無害化する処理ではなく、都市鉱山からの金属回収であり、理屈のうえでは水平リサイクルに近い。一方で、国内で湿式製錬まで一貫して行える設備は限られているため、ブラックマスの状態で海外へ輸出されるケースも多いという実態がある。さらに回収量に目を向けると、日本自動車工業会(JAMA)の共同回収スキームにおける使用済みLiBの回収実績は2020年度で3,648個にとどまっており、経済産業省の資料でも社会実装に向けた課題として整理されている段階にある[4]。将来性だけで語るのでは足りない。国内でどこまで安定的に回収・処理・再資源化できるのかという実務面まで含めて読むことで、このテーマの現実的な意味が見えてくる。

廃棄物か有価物か、ブラックマスの線引きは条文より実態で決まる

ブラックマスは「有価で売れるから廃棄物処理法の対象外」と言われることがあるが、その見方には、取引価格だけで廃棄物該当性が決まるわけではないという前提が抜けている。廃棄物処理法第2条は、廃棄物を「占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要になった物」と位置づける考え方の出発点であり、実務では価格だけでなく、排出の状況や取引の実態も含めて総合判断する運用がとられている。

二次資料では「有価物なら委託契約書もマニフェストも不要」と整理されがちだが、条文を当たると見え方は変わる。根拠になるのは廃棄物処理法第12条第6項だ。

廃棄物処理法 第12条第6項

事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。

つまり、委託基準を満たさない委託そのものが違反になる。

ここで問われているのは、「ブラックマスが廃棄物か有価物か」というラベル付けそのものより、排出事業者責任をどこまで自覚して委託関係を組むかという点だ[2]。加えて、破砕・選別の前段階で生じるLiB自体は、施行令第2条が定める産業廃棄物の区分(廃プラスチック類・金属くず等に該当しうる)に当たることが多く、収集運搬や中間処理の許可品目をどう設定するかは委託契約書の記載内容に直結する[3]。そのため、価格条件だけを見て有価物扱いを先に決めるのではなく、排出から運搬、処分までの流れを実態ベースで点検しておくことが、後の法的リスクを避けるうえで具体的な実務対応につながる。

収集運搬・中間処理でどこまで扱えるか——許可品目と委託契約の注意点

ブラックマスを自社で輸送・保管するのであれば、まず確認すべきなのは、許可証に記載された品目と処理工程がLiB由来の廃棄物に対応しているかどうかである。廃棄物処理法第14条は産業廃棄物処理業の許可を定めており、品目外の廃棄物を扱えば無許可営業のリスクが生じる[2]。

破砕工程で生じる粉じん(ばいじん)や鉱さい、金属くずが混在する場合には、積替保管の基準や保管上限も絡んでくる。建廃・がれき類の処理とは異なり、LiB由来の廃棄物では発火・発熱のリスクが実務上の最大の論点になりやすい。さらに、電子マニフェスト(JWNET)での運搬終了報告の期限管理についても、通常の産業廃棄物より神経質に運用している処理業者が多いという実務感覚がある。許可品目の確認は、単なる書類上の整合を見る作業では終わらない。保管方法、運搬手順、報告体制まで含めて、自社の運用が事故防止と法令順守の両方に耐えられるかを見極める視点を持つことで、委託先選定や社内手順の見直しに踏み込みやすくなる。

よくある誤解

誤解「有価で売れるから廃棄物処理法の対象外」
実際取引の実態・逆有償の有無を含めた総合判断で決まる
誤解「ブラックマスは金属くずだから許可品目は何でもよい」
実際許可証に記載された品目・処理工程との整合が前提
誤解「LiBは特管産廃だから一律に厳格」
実際特管該当性は性状・自治体の運用で判断が分かれる、確認が必要

実務での使い分け基準

LiB・ブラックマスを扱うかどうかの判断は、価格交渉に入る前に法的な位置づけを固めるところから始まる。

判断フロー

  1. 取引相手との価格条件を確認すること——有償か逆有償かで廃棄物該当性の検討材料が変わる

  2. 自社の許可証に記載された品目を確認すること——LiB由来の廃棄物・ブラックマスが品目に含まれているかを見る

  3. 委託契約書の記載事項を確認すること——施行規則が求める添付書面・記載事項が揃っているかを点検する

  4. 発火・発熱リスクの評価を行うこと——特別管理産業廃棄物に該当するかの判断材料にする

  5. 電子マニフェストの運用体制を確認すること——運搬・処分の終了報告が期限内に完了する体制か見る

ブラックマスを自社で扱う計画があるなら、最初に固めるべきなのは許可品目と委託契約書の整合であり、その確認を飛ばしたまま価格条件だけで話を進めると、後から法的位置づけの見直しを迫られる可能性がある。そのうえで、取引価格が逆有償に転じていないかを確認し、発火・発熱リスクの評価や電子マニフェストの運用体制まで含めて手順を詰めていくことが、現場で無理なく回る判断基準として機能する。