2017年度に943個だった使用済み車載用リチウムイオン電池(LiB)の回収実績は、2020年度に3,648個まで積み上がった[2]。わずか3年で4倍近くに伸びた数字だが、これは重量ベースの統計ではない。産業廃棄物処理の現場で「回収量」という言葉を聞くと、トンやキログラムをまず思い浮かべるかもしれないが、公表されている車載用LiBの数字は「個」単位であり、この単位のズレを押さえないまま許可品目や委託契約の判断をすると、現場で話が噛み合わなくなる。
2020年度の回収実績は3,648個——この数字をどう読むか
この3,648個という数字は、国内のLiB排出量全体を表すものではない。経済産業省「第1回 蓄電池のサステナビリティに関する研究会」資料4(2022年1月21日)は、2020年度の回収実績としてリチウムイオン電池3,648個、ニッケル水素電池6,251個を公表している[1]。この数字は日本自動車工業会(JAMA)が構築した共同回収スキームの実績であり、ディーラーや解体業者が持ち込んだ駆動用電池を集計したものになる。
重要なのは、重量ベースの公的統計がほとんど存在しない点であり、産業廃棄物全体で見れば環境省『令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』による令和4年度(2022年度)の最終処分量は12.5百万トンに上るものの[3]、これは産廃全体の数字であって、LiB回収の「個」とは単位も母集団もまったく異なる。両者を足し引きして語ることはできない。むしろこの単位の違いこそが、車載用LiBがまだ産業廃棄物の統計体系の中で独立した区分を持たない現状を映している。重量換算の数値を独自に算出して社内資料に使う場合は、換算根拠を明記しておかないと後から検証できなくなる。同白書は令和4年度の資源生産性を47.5万円/トンと示している[3]。同じ年度の入口側の循環利用率は16.3%だった[3]。出口側の循環利用率も43.3%にとどまり[3]、循環経済全体の指標から見てもLiBの個別回収状況を直接読み取ることはできないため、社内説明では数字の射程を切り分けて扱うことが、その後の判断の前提をそろえる意味を持つ。
回収量という数字は、何を数えているのか
この数字が指すのは、JAMAの共同回収スキームを経由した台数だけだ。それ以外のルート——自治体回収や個別契約での引き取り——は、この統計には反映されていない可能性がある。国立国会図書館の調査資料は、車載用LiBの海外への流出や回収率の低さを課題として指摘しており、公表されている回収実績が実態の全量を捉えきれていない可能性を示している[4]。統計の外側に流れているルートがある以上、回収量の数字は下限値として読むのが実務的であり、社内説明や顧客向け資料でも「把握できている範囲の実績」であることを添えておくほうが、後段の契約や受入条件の調整で齟齬を生みにくい。
二次資料ではLiBが一律に特別管理産業廃棄物として扱われるように書かれることがある。だが、廃棄物処理法施行令を当たると話は単純ではない。特別管理産業廃棄物の範囲は施行令第2条の4に定めがあり、該当するかどうかは性状の判定基準によって決まる。根拠は施行令第2条の4だ。つまりLiBだから自動的に特管になるわけではなく、個別の性状確認が前提になる。ここを曖昧にしたまま収運・中間処理の体制を組むと、特別管理産業廃棄物管理責任者の要否判断がぶれやすく、受入前にどの資料と判定に基づいて整理したのかを文書で残しておくことが、後から説明責任を果たすうえで実務上の意味を持つ。
よくある誤解
2017年度から2021年度見込みまでの推移をどう見るか
数字だけ並べると伸びは明快だ。経済産業省「LIBリサイクルの検討状況について(中間報告)」資料2-4(2022年2月3日)は、2017年度943個、2018年度2,364個、2019年度3,014個、2020年度3,648個という回収実績を示し、2021年度は約4,500個程度の見込みとしている[2]。
年度 | 回収実績(個) |
|---|---|
2017年度 | 943 |
2018年度 | 2,364 |
2019年度 | 3,014 |
2020年度 | 3,648 |
2021年度(見込み) | 約4,500 |
出典:経済産業省「LIBリサイクルの検討状況について(中間報告)」資料2-4(2022年2月3日)[2]
4年間で実績値が約3.9倍になった計算だ。もっとも、2021年度はあくまで見込み値であり、確定した実績ではない。さらに2022年度以降の回収実績について、公的な場で更新された数値は確認できていない。したがって、伸び率を機械的に延長して将来を語るのは早計であり、一方で同じ経済産業省の研究会資料は自動車の電動化に伴い車載用蓄電池の需要が当面急激に拡大する見込みだとしているため[1]、需要側の拡大見通しに対して回収の実績値がどこまで追いつくかは、現時点の公表データだけでは判断材料が足りない。設備投資や受入能力の計画に直結させるのであれば、外部公表値をそのまま使うのではなく、社内で別途前提条件を置いた検討として整理しておく必要がある。
現場での判断基準は何か
回収量の推移が示すのは、台数としての伸びであって、処理現場の受け入れ体制が整っているかどうかではない。ここから先は、収運・中間処理の現場でどう判断するかという実務の話になる。
まず品目の確認だ。廃棄物処理法第14条は産業廃棄物処理業の許可について定めており、許可証の事業の範囲に記載された品目以外は扱えない。既存の許可が廃プラ・金属くず・木くずといった品目に限られている場合、LiBを含む使用済電池を受け入れるには事業範囲の変更が必要になる場面がある。施行規則第10条の9は産業廃棄物処理業の事業範囲の変更の許可の申請について定めており、品目を広げる前に許可証を見直す作業が欠かせない[6]。受入の可否は営業判断だけで決められるものではなく、許可証の記載と実際の取扱対象が一致しているかを先に照合しておくことが、後戻りのない受入設計につながる。
次に保管の基準だ。産業廃棄物保管基準は施行規則第8条に定めがあり、これはLiBに限らず産業廃棄物全般に適用される一般的な基準にすぎない。しかしLiBは内部短絡による発火のリスクを抱えており、条文には書かれていない運用上の配慮——端子の絶縁・積み上げ高さの抑制・火気からの距離確保——が実務では重ねて求められる。条文上の要件を満たしているだけでは足りない典型例であり、これは保管方法の問題であると同時に、受け入れ可否そのものを判断する基準の問題でもある。見積りを出す前に、既存の保管場所でその上乗せ対応が物理的に可能かを現地で確認しておけば、契約後に保管条件を満たせず受入停止や条件変更の調整が発生するリスクを具体的に減らせる。
委託契約書の記載事項にも注意が要る。施行規則第8条の4の2は委託契約書に含まれるべき事項を定めており、LiBのような発火性を伴う廃棄物を扱う場合は、性状や取扱い上の注意事項を契約書に明記しておくことが、委託基準を満たすうえでの実務上の備えになる。マニフェスト(管理票)や電子マニフェスト・JWNETでの運用も、品目区分を誤ると後工程の処分業者との間で齟齬が生じる。そのため、契約書・管理票・現場表示の三つで記載内容が食い違っていないかを事前にそろえておくことが、引渡し後にどの情報を正とするかで揉めないための具体的な管理になる。
最後に経済性の視点だ。LiBにはリチウム・コバルト・ニッケルといった都市鉱山的価値のある金属が含まれており、ケミカルリサイクルや水平リサイクルの技術が実装段階に進めば、現在は処理費用を伴う委託でも、将来は逆有償に近い条件へ変わる可能性がある。ただし現時点でこの移行時期を示す公的な数値は確認できていない。多量排出事業者や優良産廃処理業者認定制度の枠組みで新素材への対応を評価する動きが今後出てくるかどうかも、現状では見通せない部分である。だからこそ、足元の契約条件は将来の市況変化を前提にせず、現時点で確認できる処理体制と責任分界に基づいて詰めるという順序で整理しておくと、価格や役割分担の説明に無理が出にくい。
使用済み車載用LiBの収集運搬・中間処理に当たるなら、まず許可証の事業の範囲にその品目が含まれているかを確認する。そのうえで、委託契約書の記載と保管体制が施行規則の基準に対応しているかを突き合わせる順で見ていけば、受入後になって制度要件と現場運用のずれが表面化する事態を避けやすくなり、誰がどの根拠で受入可否を判断したのかも社内で追えるようになる。
